世間一般にはそれほど知られていないですが、医療業界では知らない人がいない高成長企業です。
2000年の創業から25年間で、なんと売上が2,849億円の企業となりました。
この記事では、エムスリーの強みとなぜ成長できたのか?を最新決算も含めて解説します。医療業界の知識がなくても理解できる内容になっています。
この記事は、
・営業担当・課長・部長・本部長・執行役員の経験
・風土の違う5社での経験
・数百名のマネジメント経験
・数千社への営業経験
・100回を超える勉強会の講師経験
・1,000冊近い読書経験
これらの経験を持つよしつが実体験から得たことを元に書いています。
(あわせて読みたい【企業実例研究】成長企業の成長理由)
エムスリー 強みと高い成長率の理由とは?
・全国の医師の90%以上を自社サイトの会員にしたこと
・上記を基盤に様々な事業を立ち上げたこと
強みと高い成長の理由はこの2点です。
まずは、直近の財務三表でエムスリーさんがどんな会社かを紹介した後に、上記を解説します。
エムスリーはどんな会社?
医療従事者専門サイト「m3.com」が事業のコアです。このサイトに全国の医師・医療従事者を集めて、薬の情報を提供したい製薬メーカーから広告費をもらう事業を中心に、さまざまな周辺事業をおこなっています。
エムスリーを財務三表から見るとどんな会社?
公表されている財務三表で、エムスリーさんがどんな会社か?を見てみます。
会社とは「現金を使って現金を増やす行動」をおこなっており、その行動は以下の流れです。
・お金を集めて投資する(貸借対照表B/S)
・投資したのものを使って売り上げ、費用を引けば利益(損益計算書P/L)
・上記の結果、現金が増えたのかどうかを把握する(キャ5シュフロー計算書C/F)
(詳細は「会社の本質は何?」をわかりやすく解説を参照)
この流れに、現在の業績を加えて見ていきましょう。
エムスリーさんの2025年3月期の公表されている決算短信を元に説明していきます。

上記の場所から、2025年3月期決算短信をご覧ください。
注意点ですが、数字の単位が万円や億円ではなく、百万円となっています。
財務諸表等では、カンマごとで切られて表示される場合がほとんどです。
具体的には10,000,000円は、10百万円や10,000千円と表示されます。
表の右上等に表記の単位が記されていますので、見る癖をつけることと、この表記に慣れましょう。
ちなみに、この記事ではわかりやすいように、万円・億円表記かつ数字を丸めています。
直近の業績
売上は、2,849億円(昨年2,389億円、一昨年2,308億円)、売上総利益1,544億円(昨年1,405億円、一昨年1,352億円)、営業利益は630億円(昨年644億円、一昨年720億円)です。
売上は増収となりましたが、営業利益は減益となりました。コロナ関連売上が減少したことで、メイン事業であるメディカルプラットフォーム事業と、エビデンスソリューション事業が昨年割れとなったもの、M&Aした会社の売上及び利益が増えた差し引きで売上は伸びましたが営業利益は減少しました。
ただ、売上総利益率が54%となっており、とても高い数値です。
お金を集めて投資する(貸借対照表B/S)

(貸借対照表の見方は「貸借対照表(B/S)」超簡単解説&使い方紹介を参照)
お金を集める
どのようにお金を集めているのかを見てみましょう。貸借対照表の右側です(決算短信5.6P参照)。
負債+資本合計5,817億円中、利益余剰金だけで2,898億円(昨年2,636億円、一昨年2,312億円)もあります。
集めたお金の約半分が、過去の利益の積み上げとなる利益余剰金です。とても安全なお金の集め方です。
資本金等を加えた、自己資本比率は71%です。
利益率が高く、売上額も伸びているため、利益余剰金が大きく積み上がっています。
一部借入はありますが、返さなくてもいいお金(株式や過去の利益の積み上げ分)のシェアが高く、経営の安定度は抜群です。
投資する
どう投資しているのかを見てみましょう。貸借対照表左側を見てみます。
現金で1,349億円(昨年1,497億円、一昨年1,183億円)、のれんで1,116億円(昨年955億円、一昨年713億円)です。
様々な用途で使える現金を持っておくことと、会社を買収することに徹底的に投資しています。
のれん科目に大きな金額が入っている場合、M&Aで会社を買収しているからです。
見方は、簡略化して言うと、例えば純資産10億のA社を11億で買収した場合、上乗せした1億円が資産計上されると思ってください。
投資したのものを使って売り上げ、費用を引けば利益(損益計算書P/L)

(損益計算書の見方は「損益計算書(P/L)」超簡単解説&使い方紹介を参照)
どれだけの売上と利益が出ているかを再度見てみます(決算短信7.8P)。
売上は、2,849億円(昨年2,389億円、一昨年2,308億円)、売上総利益1,544億円(昨年1,405億円、一昨年1,352億円)、営業利益は630億円(昨年644億円、一昨年720億円)です。
売上は増収となりましたが、営業利益は減益となりました。コロナ関連売上が減少したことで、メイン事業であるメディカルプラットフォーム事業と、エビデンスソリューション事業が昨年割れとなったもの、M&Aした会社の売上及び利益が増えた差し引きで売上は伸びましたが営業利益は減少しました。
上記の結果現金が増えたのかどうかを把握する(キャッシュフロー計算書C/F)

(キャッシュフロー計算書の見方は「キャッシュフロー計算書(C/F)」超簡単解説&使い方紹介を参照)
キャッシュの増減を見てみます(決算短信10P)。
期末残高は1,349億円(昨年1,497億円、一昨年1,183億)となっています。
エムスリーはどんな売上獲得のモデル(ビジネスモデル)か?

(モデルの詳細は「売上獲得のモデル(ビジネスモデル)は3つ」をわかりやすく解説を参照)
マッチングモデル
様々な事業がありますが、メインのメディカルプラットフォーム事業はマッチングモデルです。
ほとんどの医師を集めるサイトを作り、そのサイトに製薬会社が出す広告費が収入となっています。
エムスリーの強みと高い成長率の理由を「詳細解説」
・全国の医師の90%以上を自社サイトの会員にしたこと
・上記を基盤に様々な事業を立ち上げたこと
強みと高い成長率の理由である上記2点をそれぞれ解説します。
全国の医師の90%以上を自社サイトの会員にしたこと
全国の医師33万人以上(90%以上)と接点を持てることが最大の強み
何をおいても自社サイトに全国の医師の90%以上を会員化したことです。特定のターゲットの90%以上が集まるサイトに対して、医師と接点を持ちたい事業者がほっておくわけはありません。
色々な業界がありますが、特定のターゲットの90%以上と接点を持てる企業は他にはないでしょう。
特に、医師は患者と向き合う時間が多く忙しいのでなおさら価値があります。
医師の日常
医師は、昼間は外来の診察や入院患者の診察でデスクワークではなく、対面診察が中心です。
調べ物などの仕事は、わずかな隙間時間や診察後にしかできません。
ただ、医師の間違いは人命にかかわりますので、既存治療方法はもちろん、常に新しい治療方法の情報も得ないといけません。
その上、治療方法の知識だけでなく、新薬の知識など常に進化する情報をつかんでおく必要があります。
医師の情報入手方法
上記のような業務内容なので、隙間時間や診察終了後に様々なことを学ぶ必要があります。
ただ、膨大な論文・文献を読んだり、膨大な量である薬の知識と学ぶことはとても大変です。
したがって、自分で調べたい時に調べることができること、そして、膨大な論文・文献を含めた情報をまとめて格納してるWebサイトとの親和性が元々高かったのです。
ただ、薬の情報については、製薬会社のMRと呼ばれる営業担当と直接やり取りすることで、情報を得ていました。
MRとは、製薬会社の営業担当の総称です。医師とのコミュニケーションを目的に、つねに病院にいて、医師のほんの少しの時間を狙って営業している人たちです。
知りたいことをひとつずつ調べるより、MRから情報を得たほうがてっとり早いのです。
ただ、製薬メーカーは沢山あるので、医師の限られた時間では、すべての製薬メーカーとコミュニケーションを取る時間もなく、得たい情報をすぐに得ることができない課題がありました。
製薬会社側には、医師に自社の薬の情報をちゃんと伝えたいが、医師に話をする時間が非常に少ない上に、何もしない待ち時間もとっても多いという課題がありました。
このギャップに目を付けたのがエムスリーさんです。
エムスリーが医師の会員化に成功
そもそも医師とWebは親和性が高かった中、エムスリーさんが医師向けのお役立ち情報を徹底的に発信することで、医師にエムスリーのWebサイトの会員になるように促進しました。
具体的には、医療ニュースや文献検索、科別情報といった医師にとって必要な情報を無料で提供しました。
また、情報を読むだけでポイント付与(ギフトカードと交換可能)する仕組みも入れて、一気に会員化が進んでいきます。
医師にとって医療情報は事故にもつながるので、知っておかなければならない。
その知っておかなければならない情報を一か所に集めてくれたのがエムスリーさんなのです。
その上、無料で会員になれ、その上、必要な情報を読むだけでギフトカード=ほぼ現金をもらえるとなれば、一気に会員化が進んでいきます。
医師が集まれば広告ニーズが発生
特定ターゲットが集まる場所には、広告ニーズが必ず発生します。
とても多くの医師が、自ら情報を取りに来てくれる場所に対して、製薬メーカーはMRで担保していた情報提供と営業活動を、広告やメルマガなどの代替手段で提供できるようになりました。
当然製薬会社は、自社商品を伝えたいので広告出稿します。ただ、この広告費が高いのです。
製薬会社のエムスリーに払う広告費は、今はオープンになっていないのですが、数年前までは発表されていました。
まず参画するだけで、年間7,000万円、メルマガ等で医師と接点を持つ手段で2,000万円から4,000万円。
合計するとほぼ年間1億円からのスタートとなります。
これも数年前の数字ですが、この事業の売上÷参画社数で計算すると、なんと1社平均5億円/年の広告費となります。
そこまでの高額な金額を払っても、自社の商品(=薬)を告知するメリットがあるのです。さすが医療マーケットはとてつもなく大きいことがわかります。
接点を元に様々な事業を立ち上げたこと
このように全国の医師33万人と接点を持っている強みを生かし事業展開を行っています。
2000年創業で、製薬会社マーケティングサービス、2004年 医師向け求人求職サービス、2005年 海外進出(韓国)などを立ち上げました。
2020年には、治験事業、医療DX等にも進出しています。最近はM&Aを多数おこなっています。
現時点では、メディカルプラットフォーム事業、エビデンスソリューション事業、キャリアソリューション事業、サイトソリューション事業、ペイシェントソリューション事業、海外事業と事業を拡大しています。
エムスリー高成長の理由のまとめ
・全国の医師の90%以上を自社サイトの会員にしたこと
・上記を基盤に様々な事業を立ち上げたこと
強みと高い高成長の理由はこの2点です。
会員化と言っても他の業界では、幽霊会員も含めて会員数としている場合も多いです。
ただ、エムスリーさんは、医師の特性(情報収集の必要性が高い)でサイト訪問頻度及び1回当たりのページビュー数も非常に高い数値(=アクティブ会員)となっています。
特定ターゲットのほとんどの人との接点を持てたことが高成長の理由です。
他にも「企業実例研究」で以下の会社の記事を書いています。参照下さい。
- 「キーエンス」
- 「ZOZO」
- 「メルカリ」
- 「オービック」
- 「ビズリーチ」
- 「サイボウズ」
- 「ラクス(楽楽清算等)」
- 「日本M&Aセンター」
- 「ワークマン」
- 「Sansan」
- 「ダイキン工業」
- 「ABCマート」
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- 「良品計画(無印良品)」
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- 「ラクスル」
- 「freee」
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