ビズリーチさんは、既存会社が非常に強い人材業界で急成長しています。
ハイクラスの転職者の「不」と、採用したい企業の「不」を同時に解消したことが大きな要因です。
この記事では、これだけの競合が多い業界でなぜ高成長できているのか?その中で、どんな「不」を解消したのか?についてわかりやすく解説します。
この記事は、人材業界で働いた経験と、ビズリーチを使って転職した経験を持つよしつが、風土の違う5社での経験、数百名のマネジメント経験、100回を超える若手向け勉強会の講師をした経験を活かして、記事を書いています。
(あわせて読みたい 【有名企業分析】直近決算と成長のポイントをわかりやすく解説)
ビズリーチ高成長の理由とは?
- 消費者(転職者)ファーストではなく、募集者(企業・人材会社)ファーストで事業構築
- ハイクラスのオープンにできない募集を、ひとつの場所に沢山集めた
この2点が高成長の主たる理由です。
ビズリーチとはどんな会社?
正式社名はビジョナル株式会社です。TVCMで有名は、「ビスリーチ」というWebサイトを運営しています。
Webサイトに、転職したいハイクラス人材と、人材会社のヘッドハンター及び直接採用したい企業を集めてマッチングビジネスを展開しています。
人材業界にダイレクトスカウトという手法を導入し、高成長しています。
ビズリーチを財務三表から見るとどんな会社?
まずは、ビズリーチ(社名はビジョナル株式会社)さんがどんな会社かを、公表されている財務三表で見てみます。
会社とは「現金を使って現金を増やす行動」をおこなっており、その行動は以下の流れです。
- お金を集めて投資する(貸借対照表B/S)
- 投資したのものを使って売り上げ、費用を引けば利益(損益計算書P/L)
- 上記の結果現金が増えたのかどうかを把握する(キャッシュフロー計算書C/F)
(詳細は「会社の本質は何?」を超わかりやすく解説を参照)
この流れに現在の業績を加えて順番で見ていきましょう。
ビズリーチさん(ビジョナル株式会社)の2022年7月期の公表されている決算短信を元に説明していきます。

上記の場所から、2022年7月期決算短信をご覧ください。
注意点ですが、数字の単位が万円や億円ではなく、百万円となっています。
財務諸表等では、例えば10,000,000円=1,000万円はカンマごとで切られて表示される場合がほとんどです。
具体的には10百万円や10,000千円と表示されます。
表の右上等に表記の単位が記されていますので、見る癖をつけることと、この表記に何とか慣れましょうね。
ちなみに、この記事ではわかりやすいように、万円・億円かつ数字を丸めて表記します。
直近の業績
売上は約440億円、売上総利益は約382億円、営業利益は約83億円です。
売上は前年度と比べてなんと53%伸びています。特筆すべきは売上総利益率が87%を超えており、非常に高い率となっています。100万円売り上げたら、87万円売上総利益=粗利になる会社です。
お金を集めて投資する(貸借対照表B/S)

(貸借対照表の見方は「貸借対照表(B/S)」超簡単解説&使い方紹介を参照)
では最初に、どのようにお金を集めているのでしょうか?貸借対照表の右側ですね(決算短信5.6P参照)。
集めたお金の約49%(225億円)が、株主からの出資で資本金に入っていない資本余剰金(102億円)、過去の利益の積み上げである利益余剰金(123億円)となっています。
共に返済の必要のないお金で資金を集めています。
ほんの少し借入はありますが、返さなくてもいいお金(株式や過去の利益の積み上げ分)のシェアが高く、経営の安定度は抜群です。
では、それをどう投資しているのか?貸借対照表左側ですね。
現金で314億円で資産合計の69%を占めます。
様々な用途で使える現金を持っておくことで事業運営をおこなっています。
投資したのものを使って売り上げ、費用を引けば利益(損益計算書P/L)

(損益計算書の見方は「損益計算書(P/L)」超簡単解説&使い方紹介を参照)
では、どれだけの売上と利益が出ているかを再度見てみます(決算短信7.8P)。
売上は約440億円、売上総利益は約382億円、営業利益は約83億円です。
売上総利益率が87%とSaaS事業の典型的な高利益率構造となっています。
企業や人材会社が掲載費を払ってビズリーチのサイトに掲載されても、システムの中で情報が追加されるだけなので、掲載件数が増えたとしても原価が増えるわけではなく、原価総額はほぼ同じままです。
だからこのような高利益率となるのです。
上記の結果現金が増えたのかどうかを把握する(キャッシュフロー計算書C/F)

(キャッシュフロー計算書の見方は「キャッシュフロー計算書(C/F)」超簡単解説&使い方紹介を参照)
キャッシュの増減を見てみます(決算短信11.12P)。
期末残高は億あります。昨年と比べて57億残高が増えています。
会社を買収したため29億円のキャッシュアウトがありますが、その他は、大きなキャッシュアウトはないですね。
2.ビズリーチはどんな売上獲得のモデル(ビジネスモデル)か?

(モデルの詳細は「売上獲得のモデル(ビジネスモデル)は3つ」をわかりやすく解説を参照)
マッチングモデルです。転職したい人と採用したい企業及び採用したい人材会社を、Web上でマッチングさせているビジネスです。
採用したい会社と人材会社からサイト掲載料と採用できた場合に追加で成約料を取っています。更に、転職したい人からもサイト利用料を取っているのが他社にない特徴です。
ビズリーチの高成長の理由を「詳細解説」
消費者(転職者)ファーストではなく、募集者(採用したい企業・人材会社)ファーストが一番の理由です。
事業を計画する際は、普通に考えると消費者(転職)ファーストです。
転職希望者が望む、有名大手企業の募集案件をどう集めてくるか?転職希望者が使いやすいサイトをどう構築するか?ましてや有料なんでもってのほかと考えます。
でも、ビズリーチさんは、全く逆で考えた。ただ、その結果、募集サイドの企業や人材会社だけでなく、転職希望者も満足するサービスを提供することができたのです。
ハイクラス層の当時の「不」とは何?
ここでは、ハイクラスという定義をわかりやすくするために、管理職~経営層とします。
転職検討者の当時の「不」
- 募集案件が、オープンになっておらずクローズ
- 人材紹介会社からしか、採用情報を得ることができない
- 人材会社は、大手は少なく中小が多数
- 多数の人材紹介会社に会わないと様々な募集案件に出会えない
- 人材紹介会社との接点は、訪問が主かつ会える担当者の数も制限
人材紹介会社の当時の「不」
- 転職希望者に会える方法は、自社へのエントリーのみ
- 募集案件があっても、マッチングさせることに苦労
- 成果報酬なので、マッチングしないと収入はゼロ
- 無理に募集会社に転職希望者を紹介すると、人材会社の評価が下がる
募集企業の当時の「不」
- 主流であった広告での採用は、使いずらかった
- 人材紹介会社にお願いするしかなかった
- 人材紹介会社1社当たり転職希望者数が少なく、沢山の人材紹介会社と会う必要があった
3者にこのような「不」がありました。
3者の「不」の背景
当時のハイクラス人材の採用環境ですが、ハイクラスの人たちが転職するには、人材紹介会社のオープンになっていない求人情報(非公開求人)を得るしかなかったのです。
なぜオープンにできないのか?
仮に、20名営業担当がいて、営業課長が2名、その上に営業部長が1名いる組織があるとします。
営業担当を募集するには、特に全員が知っていても問題がないのはわかると思います。
ただ、もしこの組織で営業部長の新規募集をしていることを、全員が知ったとします。
その部長が退職することになっており、更にオープン情報になっていればいいですが、そうでなければ、営業部長がやめる?営業課長の昇進はない?営業部長が異動?といろんな憶測がでます。
そうなると、会社は困ります。正確な人事情報がオープンになる前に、人事のうわさが駆け巡ることで、組織全体のゆるみや、各人のモチベーションに悪影響を及ぼします。
この情報が流れた後に、もし採用がうまくいかずに営業課長の一人に部長になってくれと言ったとします。
営業課長からすると、採用しようとしていたのに採用できなかったから、しょうがなく私に声をかけてきたと感じるでしょう。
このような例もあり、管理職の募集は内密に行わないといけないのです。
でも、内密となると、その当時のメインの募集方法である広告では、募集できません。誰が見るかわからないオープン情報となるからです。
だから、人材会社にオーダーするのです。
人材会社は、応募者を事前に集める努力をしており、自社に登録されている人材と募集企業のニーズをマッチングさせようとします。
ただ、問題なのは、ハイクラスの転職希望者を自社で集めないといけないため、沢山の転職希望者を抱えることができず、募集会社のニーズにかなう人材を紹介しづらい点です。
ここに目をつけたのが、ビズリーチさんです。
制約条件は募集案件をオープンにできないことです。
ただし、オープンにできない募集案件を一か所に集め、オープンにならないようにマッチングできる仕組みを作れば、転職希望者も採用したい企業や人材紹介会社が集まってきます。
では、オープンになっていない案件を一か所に集めるためにどうしたのか?
消費者(転職者)ファーストではなく、募集者ファーストで事業を構築
ここで消費者(転職者)ファーストではなく、募集者ファーストで事業を考えました。
リボン図はご存じでしょうか?

これがリボン図です。普通は、カスタマー側から考えるのですが、クライアント側から考えたのです。
(詳しくは「リボン図(マッチングモデル)」をわかりやすく解説&使い方紹介を参照)
クライアントサイドである採用したい企業や人材紹介会社をどうすれば集めることができるか?
ハイクラスの転職希望者のみが沢山集まり、集まった人の詳細に記載された職務経歴書と履歴書が閲覧でき、気に入った人に直接アプローチできる仕組み(ダイレクトリクルーティング)があれば集まると考えました。
ハイクラスのオープンにできない募集をひとつの場所に沢山集めたこと
テレビCMで「ハイクラスの転職」「企業やヘッドハンターから直接アプローチがある」と言われると、採用したい企業や人材紹介会社向けのTVCMですが、ハイクラスの転職検討者もサイトに集まりました。
サイト登録する際に簡単な審査があり、通ればそのまま会員となります。
ただ最初の1か月は無料ですが、その後はお金がかかります。
ただ、基本現状の年収も低くなく、採用サイドからアプローチがあるのであれば、月5,000円位のお金は出す人たちです。
その上で、直接沢山アプローチされるように、職務経歴書や履歴書はちゃんとのせておきましょうねと言われると、ほいほいとこれらの情報をサイトに登録します。
私も転職の際にビズリーチを使ったのですが、職務経歴書と履歴書をしっかりした情報量で入力しました。
このように、転職希望者は自ら集まって、職務経歴書等の個人情報までサイトに自ら掲載してくれるのです。
実はこの段階で、会員になる際の最低限の審査(ハイクラスかどうか)をクリアし、会員費を払うということで転職ニーズも高く、詳しい職務経歴書や履歴書まで記載されたデータベースが出来上がるのです。
このようなビズリーチさんのデータベースに月数十万円払えば、閲覧だけでなく、直接コンタクトを取ることもできますと言えば、募集企業はもちろん、人材紹介会社も、集まってきます。
この結果、クローズの募集案件が一か所に集まり、それが、クローズのまま転職希望者に紹介されることで、更にビズリーチの評判があがり、転職希望者だけでなく、募集企業、人材紹介会社が集まってきます。
そうなると当然採用が決まり、システム利用料だけでなく、マッチングできた場合の手数料も年々増えていくという流れになったのです。
そもそもシステム利用料だけでなく、ちゃんと成約手数料もかかる仕組みにしていることも一つのポイントとなります。
マッチングがうまくいくために、「ビズリーチ」というワードが一気に広がった大量のTVCMによる募集会社や人材紹介会社はもちろん、ハイクラスの転職希望者への知名度アップも大きな要因でした。
実際に私も、ビズリーチさんをはじめ数サイト及び人材紹介会社と接触していました。
当然ビズリーチさんのみ有料ですが、いい募集案件を知りたいので、お金を払うことを厭いませんでした。
そして、私を見つけてくれた人材紹介会社の紹介で今の会社にいます。
豆知識ですが、転職希望者の方向けに、採用が決まってアンケートに答えたら、ギフト券がもらえます。
実はこれはとっても大事なことです。なぜなら、ビズリーチさんのサイト上では、会うことはサイト内のメールのやり取りでわかるのですが、実際に採用できたかどうかまではわかりません。
そこで、ギフト券がもらえる=ビズリーチが採用されたことを把握する仕組みを入れているのです。
成約報酬をしっかりもらうための施策です。
ビズリーチ急成長の理由の「まとめ」
- 消費者(転職者)ファーストではなく、募集者(企業・人材会社)ファーストで事業構築
- ハイクラスのオープンにできない募集を、ひとつの場所に沢山集めた
この発想の転嫁が大きかった。
採用超大手のリクルートさんは、消費者ファーストの意識がとても強い。だからこそ、あそこまで大きくなったのですが、このマーケットは、その思いが邪魔をしたのでしょう。さすがに転職希望者からお金を取る判断は出来なかったのでしょう。
ただ、これがリストの精度を上げて、募集会社からしたら喉から手が出るほどのリストとなりました。
これが、マッチングビジネスの難しいところですね。
リクルートさんもリクルートダイレクトスカウトというビズリーチさんと同じサービスを立ち上げました。えげつない額の広告費をかけてTVCMをおこなっています。
皆さんも何十回も広告を見たと思います。この戦いがどうなるのか?見ておきましょう。
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また、上記企業のポイントをまとめてさくっと知りたい方は、【有名企業分析】18社の直近決算と成長のポイントをわかりやすく解説を参照ください。
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