医師の90%以上を会員化!「エムスリー」最新決算と高成長の理由を解説

6.成長企業の成長の理由
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世間一般にはそれほど知られていないですが、医療業界では知らない人がいない高成長企業です。

2000年の創業から23年間で、なんと売上が2,300億円を超える企業となりました。

この記事では、エムスリーがなぜ急成長できたのか?最新決算も含めて、医療業界の知識がなくても理解できるようにわかりやすく解説します。

この記事は、
・風土の違う5社での経験
・数百名のマネジメント経験
・数千社への営業経験
・100回を超える若手向け勉強会の講師経験
これらの経験を持つよしつが実体験から得たことを元に書いています。

(あわせて読みたい 【成長企業の成長の理由】有名18社の直近決算と成長のポイントを解説

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エムスリー 高成長の理由とは?

  1. 全国の医師の90%(約32万人)以上を自社サイトの会員にしたこと
  2. その接点を元に様々な事業を立ち上げたこと

この2点が高成長の主たる理由です。

エムスリーはどんな会社?

医療従事者専門サイト「m3.com」が事業のコアです。このサイトに全国の医師・医療従事者を集めて、薬の情報を提供したい製薬メーカーから広告費をもらう事業を中心に、さまざまな周辺事業をおこなっています。

エムスリーを財務三表から見るとどんな会社?

公表されている財務三表で、エムスリーさんがどんな会社か?を見てみます。

会社とは「現金を使って現金を増やす行動」をおこなっており、その行動は以下の流れです。

  1. お金を集めて投資する(貸借対照表B/S)
  2. 投資したのものを使って売り上げ、費用を引けば利益(損益計算書P/L)
  3. 上記の結果現金が増えたのかどうかを把握する(キャッシュフロー計算書C/F)

(詳細は「会社の本質は何?」をわかりやすく解説を参照)

この流れに、現在の業績を加えて見ていきましょう。

エムスリーさんの2023年3月期の公表されている決算短信を元に説明していきます。

決算短信 | エムスリー株式会社
エムスリー株式会社の「決算短信」について。

上記の場所から、2023年3月期決算短信をご覧ください。

注意点ですが、数字の単位が万円や億円ではなく、百万円となっています。

財務諸表等では、カンマごとで切られて表示される場合がほとんどです。

具体的には10,000,000円は、10百万円や10,000千円と表示されます。

表の右上等に表記の単位が記されていますので、見る癖をつけることと、この表記に慣れましょう。

ちなみに、この記事ではわかりやすいように、万円・億円表記かつ数字を丸めています。

直近の業績

売上は、2,308億円(昨年2,082億円)、売上総利益1,352億円(昨年1,233億円)、営業利益は720億年(昨年951億円)です。

売上は前年度と比べて11%も伸びています。2,000億円以上の売上の企業で、この伸び率は驚異的です。

また、売上総利益率が59%となっており、とても高い数値です。

ちなみに営業利益は減収となっていますが、昨年度に一過性の収益(子会社IPO)が313億円が計上されているからです。この数字を抜くと、昨年の営業利益は638億円となり、増収となります。

お金を集めて投資する(貸借対照表B/S)

(貸借対照表の見方は「貸借対照表(B/S)」超簡単解説&使い方紹介を参照)

最初に、どのようにお金を集めているのでしょうか?貸借対照表の右側です(決算短信5.6P参照)。

集めたお金の半分が、過去の利益の積み上げとなる利益余剰金です。

負債+資本合計4,006億円中、利益余剰金だけで半分以上となる2,312億円もあります。

資本金等を加えた、自己資本比率は77%です。

利益率が高く、売上額も大きく伸びているため、利益余剰金が大きく積み上がっているのです。

一部借入はありますが、返さなくてもいいお金(株式や過去の利益の積み上げ分)のシェアが高く、経営の安定度は抜群です。

では、それをどう投資しているのか?貸借対照表左側を見てみます。

現金で1,183億円、のれんで713億円です。

様々な用途で使える現金を持っておくことと、会社を買収することに投資しています。

のれん科目に大きな金額が入っている場合、M&Aで会社を買っています。

見方は、簡略化して言うと、例えば純資産10億のA社を11億で買収した場合、上乗せした1億円が資産計上されると思ってください。

投資したのものを使って売り上げ、費用を引けば利益(損益計算書P/L)

(損益計算書の見方は「損益計算書(P/L)」超簡単解説&使い方紹介を参照)

どれだけの売上と利益が出ているかを再度見てみます(決算短信6P)。

売上は、2,308億円(昨年2,082億円)、売上総利益1,352億円(昨年1,233億円)、営業利益は720億年(昨年951億円)です。

売上は前年度と比べて11%も伸びています。2,000億円以上の売上の企業で、この伸び率は驚異的です。

また、売上総利益率が59%となっており、とても高い数値です。

病院内での直接の営業活動ができない環境が引き続き追い風となり、メイン事業のメディカルプラットフォーム事業がまだ伸びています。

上記の結果現金が増えたのかどうかを把握する(キャッシュフロー計算書C/F)

(キャッシュフロー計算書の見方は「キャッシュフロー計算書(C/F)」超簡単解説&使い方紹介を参照)

キャッシュの増減を見てみます(決算短信10P)。

期末残高は1,183億あり、昨年と比べて140億以上残高が増えています。

エムスリーはどんな売上獲得のモデル(ビジネスモデル)か?

(モデルの詳細は「売上獲得のモデル(ビジネスモデル)は3つ」をわかりやすく解説を参照)

様々な事業がありますが、メインのメディカルプラットフォーム事業はマッチングモデルです。

ほとんどの医師を集めるサイトを作り、そのサイトに製薬会社が広告が収入となっています。

エムスリーの高成長の理由を「詳細解説」

全国の医師の90%(約32万人)を自社サイトの会員にしたこと

何をおいても自社サイトに全国の医師の90%以上を会員化したことです。特定のターゲットの90%以上が集まるサイトに対して、医師と接点を持ちたい事業者がほっておくわけがないのです。

色々な業界がありますが、特定のターゲットの90%以上と接点を持てる企業は他にはないでしょう。

医師の日常

医師の方は、昼間は外来の診察や入院患者の診察でデスクワークではなく、対面診察が中心です。

調べ物などの仕事は、わずかな隙間時間や診察後にしかできません。

ただ、医師の間違いは人命にかかわりますので、既存治療方法はもちろん、常に新しい治療方法の情報も得ないといけません

その上、治療方法の知識だけでなく、新薬の知識など常に進化する情報をつかんでおかなければなりません

医師の情報入手方法

上記のような業務内容なので、隙間時間や診察終了後に様々なことを学ぶ必要があります。

ただ、膨大な論文・文献を読んだり、膨大な量である薬の知識と学ぶことはとても大変です。

したがって、自分で調べたい時に調べることができること、そして、膨大な論文・文献を含めた情報をまとめて格納してるWebサイトとの親和性が元々高かったのです。

ただ、薬の情報については、製薬会社のMRと呼ばれる営業担当と直接やり取りすることで、情報を得ていました

MRとは、製薬会社の営業担当の総称です。医師とのコミュニケーションを目的に、つねに病院にいて、医師のほんの少しの時間を狙って営業している人たちです。

知りたいことをひとつずつ調べるより、MRから情報を得たほうがてっとり早いのです。

ただ、製薬メーカーは沢山あるので、医師の限られた時間では、すべての製薬メーカーコミュニケーション取る時間もなく、得たい情報をすぐに得ることができない課題がありました。

製薬会社側には、医師に自社の薬の情報をちゃんと伝えたいが、医師に話をする時間が非常に少ない上に、何もしない待ち時間もとっても多いという課題がありました。

このギャップに目を付けたのがエムスリーさんです

エムスリーが医師の会員化に成功

そもそも医師とWebは親和性が高かった中、エムスリーさんが医師向けのお役立ち情報を徹底的に発信することで、医師にエムスリーのWebサイトの会員になるように促進しました。

具体的には、医療ニュースや文献検索、科別情報といった医師にとって必要な情報を無料で提供しました。

また、情報を読むだけでポイント付与(ギフトカードと交換可能)する仕組みも入れて、一気に会員化が進んでいきます。

医師にとって医療情報は事故にもつながるので、知っておかなければならない。

その知っておかなければならない情報を一か所に集めてくれたのがエムスリーさんなのです。

その上、無料で会員になれ、その上、必要な情報を読むだけでギフトカード=ほぼ現金をもらえるとなれば、一気に会員化が進んでいきます。

医師が集まれば広告ニーズが発生

特定ターゲットが集まる場所には、広告ニーズが必ず発生します。

とても多くの医師が、自ら情報を取りに来てくれる場所に対して、製薬メーカーはMRで担保していた情報提供と営業活動を、広告やメルマガなどの代替手段で提供できるようになりました。

当然製薬会社は、自社商品を伝えたいので広告出稿します。ただ、この広告費が高いのです。

製薬会社のエムスリーに払う広告費は、今はオープンになっていないのですが、数年前までは広報されていました。

まず参画するだけで、年間7,000万円、メルマガ等で医師と接点を持つ手段で2,000万円から4,000万円。

合計するとほぼ年間1億円からのスタートとなります。

これも数年前の数字ですが、この事業の売上÷参画社数で計算すると、なんと1社平均5億円/年の広告費となります。

そこまでの高額な金額を払っても、自社の商品(=薬)を告知するメリットがあるのです。さすが医療マーケットはとてつもなく大きいことがわかります。

接点を元に様々な事業を立ち上げたこと

このように全国の医師32万人と接点を持っている強みを生かし事業展開を行っています。

2000年創業で、製薬会社マーケティングサービス、2004年 医師向け求人求職サービス、2005年 海外進出(韓国)などを立ち上げました。

2020年現在では、治験事業、医療DX等にも進出しています。

当然全国の90%以上の医師との接点を生かした展開をおこなうことで、高収益かつ高成長となり、23年度は売上が2,300億円を超える企業となりました

エムスリー高成長の理由のまとめ

  1. 全国の医師の90%(約32万人)以上を自社サイトの会員にしたこと
  2. その接点を元に様々な事業を立ち上げたこと

この2点が高成長の主たる理由です。

会員化と言っても他の業界では、幽霊会員も含めて会員数としている場合も多いです。

ただ、エムスリーさんは、医師の特性(情報収集の必要性が高い)でサイト訪問頻度及び1回当たりのページビュー数も非常に高い数値(=アクティブ会員)となっています。

特定ターゲットのほとんどの人との接点を持てたことが高成長の理由です。

他の企業の解説もしております(キーエンスオービックZOZO出前館モノタロウワークマンABCマートビズリーチメルカリサイボウズ無印良品ネット印刷ラクスルfreeeSansanダイキン工業日本M&Aセンター楽々精算ラクス)。

各企業の詳細は、それぞれの会社名をクリックしてご覧ください。

また、上記企業のポイントをまとめてさくっと知りたい方は、【成長企業の成長の理由】有名18社の直近決算と成長のポイントを解説を参照ください。

ビジネスの知識を増やすには、本を読むことがおススメです。

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