定期的に何かが不足しているという話が出ます。今は石油関係で特にナフサです。少し前はお米でした。
平時では起きないことですが、このような事態が時に起きます。
実は、このカラクリの奥底には、ビジネスの本質が潜んでいます。
「品不足」は、単なるアクシデントではありません。各プレイヤーが合理的に判断した結果、全体として不合理な現象が起きているのです。
この仕組みを言語化できるようになれば、ビジネスリテラシーは間違いなく高まります。
この記事では、品不足になる時に何が起きているかを4つの背景である「人の心」と「在庫」と「情報流通」と「サプライチェーン」に分けて解説します。
この記事は、
・営業担当・課長・部長・本部長・執行役員の経験
・風土の違う5社での経験
・数百名のマネジメント経験
・数千社への営業経験
・100回を超える勉強会の講師経験
・1,000冊近い読書経験
これらの経験を持つ「よしつ」が実体験から得たことを元に書いています。
(あわせて読みたい、ビジネスの概念や言葉の本質を分かりやすく解説)
品不足の時に起きていること
予想以上の発注が来て、受け手側の企業のキャパを一時的に超えているだけ
何かの不安情報を得た人が、自分は困りたくないのでいつもより多く購入します。
その結果、想定以上の発注がきた企業の在庫がなくなっただけのことです。
「だけ」というと困っている人からお叱りを受けるのですが、今の日本を含めた世界のビジネスでは十分起きることです。
これらの背景を把握するには、
・人の心
・企業の在庫管理
・情報伝達
・サプライチェーン
これら4つのキーワードをおさえることで把握できます。それぞれ解説します。
人の心
不安は「需要の先食い」を加速させる
人は不安に対してはすぐに解消したいと思っています。必然的にすぐに不安解消行動をおこします。
例えば、醤油が品薄と聞くと皆さんはどう動きますか?食卓には必ず必要です。
通常は醤油がなくなりそうな時に購入すると思います。多くの人がこのような行動をおこなっています。
では、醤油が不足しているというニュースを聞くと何をしますか?
普通は上記の行動なのに、まだ醤油が沢山残っていても新しく醤油を購入する、または、いつもより量の多い醤油を買います。
これを全世帯がおこなうと何か起きますでしょうか?
平時に1日100売れる商品が、150、200と売れる。ただ、沢山売れたと言っても、買った人の1日に使う量は変わりません。
この「需要の先食い」によって、需給バランスは一気に崩壊します。
企業側もこの過熱が一時的だと分かっているため、仮に物理的な増産が可能であっても二の足を踏みます。
無理に増産した直後にブームが去り、大量の在庫を抱えるリスクを恐れるからです。
企業の在庫管理
企業が「在庫を持ちたくない」のは、3つの理由があります
・在庫保管コストがかかる
・お金を払わないといけない
・売れなければ廃棄
理由は上記3つです。それぞれを解説します。
在庫保管コストがかかる
在庫を持つということは、必ず在庫置き場が必要になります。在庫を置く場所は当然ながらお金がかかります。
その上、在庫を管理する人も必要になります。
在庫があれば売れる機会の損失がなくなるメリットはありますが、コストがかかるデメリットが発生するのです。
お金を払わないといけない
在庫を持つには、原材料や製品を仕入れなければなりません。仕入れるということは購入するということです。
つまり、売れる前に「仕入れ代金」というキャッシュが出ていくことを意味します。
仕入れれば仕入れるほど手元の現金は減り、販売代金が入るまでのタイムラグが生じる。
この「キャッシュフローの悪化」こそが、企業経営における大きなリスクなのです。
売れなければ廃棄
在庫を持つということは、上記のように在庫保管や仕入れ代金の関係でキャッシュが出ていきます。
ただ、これらの在庫がちゃんと販売できるとまだいいのですが、そうならない場合も多くあります。
生鮮食品なら賞味期限が来れば廃棄です。保管が聞く製品でも、競合他社から良い製品が出ると売れなくなります。
このように売れ残りリスクが常に目の前に現れます。売れ残ると1円もお金が入ってこないだけでなく、逆に廃棄費用が追加で必要になります。
需要があるなら作ればいいじゃないかという素朴な疑問もありますが、売れ残ると余剰在庫になるリスクとの天秤で仕入れ担当者はもがき苦しんでいるのです。
情報伝達
情報の「速さ」がパニックを増幅する
そもそもある品物が不足するという情報が入ってこなければ、不安になることはありません。
したがって、急激な品不足にはなりません。
ただ、マスメディアは品不足というネタは大好きです。時には必要以上に報道します。
マスメディアによる報道に加えて、SNSで「空の棚」や「行列」の画像が拡散されると、人々の不安は指数関数的に膨れ上がります。
情報の伝達速度が、物流の供給速度を圧倒的に上回ってしまうのです。
その結果、実態以上の「不足感」が醸成され、さらなる買い占めを呼ぶ負のループに陥ります。
サプライチェーン
世界中が「薄氷の上」でつながっている
今の時代いかに原価を安くおさえるか?いかに効率よく製造するか?がほぼ最適化されています。
そして、様々な製品は高性能化していることで、部品数がとても多くなっています。
とても多い部品をさまざまな業者から仕入れていますし、業者は全世界に広がっています。
これにより、地球の裏側で何かが起きると、日本に部品が届かず製造できないことが簡単におきます。
効率化の極致として各社が「最低限の在庫」で運用している現代、たった一箇所の目詰まりが、ドミノ倒しのように全体を停止させます。
このような状態になると価格は上がっていきます。必要な人が高くても買うからです。
さらに、「品薄に乗じて高値で売ろう」と在庫を囲い込む動きをする業者も発生します。
こうして、物理的な欠乏以上に、構造的な欠乏が連鎖していくのです。
ただ、注意しないといけないのは、本当に品物がない品薄の場合と、品物はあるが価格が上がって適正価格で買えない品薄の場合が分けて語られないことです。
まとめ
今回の「品不足」のメカニズムを整理すると、以下のようになります。
人の心:不安からくる「需要の先食い」が火種となる。
在庫管理:企業は「リスク」を避けるため、急な増産には動けない。
情報伝達:SNSとメディアが、実態以上の「不足感」を爆速で広めてしまう。
サプライチェーン:効率を極めた供給網ゆえに、一箇所の綻びが全体に波及する。
これらは、誰か一人が悪いわけではありません。
消費者は自分の生活を守るために、企業は倒産を避けるために、メディアは情報を届けるために、それぞれが「合理的」に行動しています。
しかし、その集合体が「品不足」という「不合理」な社会現象を生み出しているのです。
このカラクリを理解することは、単なるニュース解説ではありません。
「感情」「コスト」「情報」「構造」という多角的な視点で世の中を見るという、ビジネスリテラシーそのものです。
次に「品物が足りない!」というニュースを目にした時は、ぜひこの4つのキーワードを思い出してみてください。
きっと、目の前の現象の裏にある「本質」が見えてくるはずです。
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