もともとはアパレル業界で始まったSPA(製造小売業)。ユニクロさんなどが有名です。
SPAは、Speciality store retailer of Private label Apparelの略語です。
最後にアパレルと入っているのが、アパレル業界から始まった証拠となります。
SPAは、すべて自社で行うので中間マージンがなくなり、利益率が高く儲かると解説される場合があります。
ただ、全工程を自社でおこなうとなると、自社で工場を作り人を雇わなければいけません。その上、在庫リスクも抱えます。当然コストが大きくかかるのですが、この固定費はどこにいったのでしょうか?
SPAだから利益率が高く儲かるというロジックは、何かが抜けているようです。
この記事では、そもそもSPAとは何か?そして上記の抜けている部分含めた詳細部分をわかりやすく解説します。
この記事は、
・営業担当・課長・部長・本部長・執行役員の経験
・風土の違う5社での経験
・数百名のマネジメント経験
・数千社への営業経験
・100回を超える勉強会の講師経験
・1,000冊近い読書経験
これらの経験を持つよしつが実体験から得たことを元に書いています。
(あわせて読みたい、知っておきたい ビジネス基礎知識)
SPA(製造小売業)とは?
製造販売を一体となって自社で行うこと
小売業の会社が川上にさかのぼって製造まで自社で行い、製販一体で自社主導で事業をおこなうことをSPAと言います。
アパレル業界から派生して、ニトリさんも同じSPAと言われています。ニトリさんは更に、流通まで自社でおこなっています。
SPA(製造小売業)の「目的」とは何?
消費者ニーズに合った商品を素早く作り続けること
このことがSPAの目的です。決して、コストが先にあるのではありません(当然重視はされますが)。
SPA(製造小売業)の「詳細解説」
自社主導にこだわる訳
なぜ在庫リスクや工場建設等のコストをかけてまで、自社主導にこだわるのか?
理由はたった一つで、自社で売りたいものを早く開発製造したいからです。
小売りの現場で把握したニーズを、いち早く商品化して販売することができれば、当然消費者に喜ばれ売上も伸びます。
ただ、小売業の場合、販売する商品を他社仕入に頼る場合が多いのも事実です。当然思ったような商品を仕入れることができない場合も多々あります。
また、自社の希望に応じて製造してもらうにしても、お願いする企業の状況により、様々な制約があります。結果、想定した量や質での製品提供を受けることが難しい場合もあります。
この問題を解決するのがSPAなのです。小売業の会社が川上の企画製造まで自社主導で行う判断をするのです。
SPA(製造小売業)のメリット
消費者ニーズに合わせた商品化
自社主導で行うことで、消費者のニーズを元に、随時商品化し製造できます。
また、急に売れるものが発生したら、そちらに製造を切り替えるなど、臨機応変な対応も可能となります。
当然仕入れ販売の小売業でいるよりも、多く販売できる可能性が高くなります。
原価率の低減
仕入れ販売の小売業では、基本、販売価格の〇%のマージンという考え方になるので、沢山売れても、そんなに売れなくても利益率は変わりません。
ただ、自社で製造する場合は、損益分岐点売上を超えた場合は、利益率は一気に高くなっていきます(原価率が下がります)。
原価率が下がる理由
変動費と固定費に分けて考えます。
変動費とは、売上に応じてかかる費用です。原材料や加工費が代表的です。固定費とは、売上の増減に関係なくかかる費用です。人件費が代表的です。
仕入販売だと、販売価格×個数×1個当たりの利益率〇%が利益となります。何個売っても利益率は変わりません。
例えば、販売価格100円の商品で、仕入れ価格が80円=利益率20%の商品だとします。
10個売れた場合の利益は、販売価格100円×10個×20%=200円が利益となります。販売価格100円×20個×20%となると、利益は400円になりますが、利益率は20%で変わりません。
自社で製造する場合は、同じように、販売価格100円の商品で、製造原価が80円=利益率20%の商品とします。
製造原価には、変動費と固定費が含まれています。変動費は売上に対して一定の率となりますが、固定費は、売上個数の大小により、1商品当たりに案分される金額は増減します。
(詳しくは、「変動費と固定費」をわかりやすく解説&使い方紹介を参照)
したがって、売れなければ固定費の案分が高くなり(利益率が低くなる)、売れれば固定費の案分が低くなる(利益率が高くなる)構造となります。
このような損益構造の中で、仕入れ販売ではかからない製造のためのコスト(例えば工場等)を抱えて、消費者ニーズに合う商品を企画・製造・販売し大量に販売する方が、リスクは抱えるが良いことだという判断でSPAに進むのです。
その結果として、同じ商品をたくさん販売できた場合、利益率の上昇=原価率の低減となるのです。
あくまで、SPAになれば、必ず利益率が上がるのではないのです。損益分岐点売上を超えないと、逆に利益率は下がるのです。
(損益分岐点売上の詳細は、複雑な計算式なしで「損益分岐点」をわかりやすく解説&使い方紹介を参照)
SPA(製造小売業)のデメリット
当然良いことばかりではありません。良いことばかりであれば、小売業の会社はほぼすべてSPAに業態変更するはずです。
現実は、ユニクロさんやニトリさんなどの一部の企業しかSPAに業態変更していないのが現実です。
2つのリスクを背負う
製造を自社で行うということは、2つの大きなリスクを背負います。
一つ目は工場等の製造現場を作って人を雇うための、投資というリスクを背負います。
2つ目は在庫リスクを背負うことです。
1つ目は単純にお金がかかるイメージはわかると思いますが、2つ目の在庫リスクも実は大きいのです。
在庫リスクとは、在庫保管コストと売れ残りの廃棄リスクと金銭リスクです。売れない商品の在庫リスクだけでなく、売れる商品でも、時間がたてば古くなり売れなくなるリスクを背負います。
そして廃棄すれば、原材料でかかったお金は丸々捨てることになります。
また、それ以上に厳しいのが、商品を作るために原材料の仕入れが発生し、その支払いは、製造した商品が売れる前に仕入業者に払うことになります。
最初にお金を払う(=キャッシュアウト)してしまっているのです。
この原材料の仕入れ額が大きいと、売上が上がる前に大きなお金が必要となり、借金をして仕入れることになるのです。
マネジメントコストがかかる
SPAで製造工場を作るのは、ほとんど海外です。海外に工場を建設し、現地の人を雇って工場を運営しないといけない。
完全に自社工場であればコントロールがききやすいのですが、コストは莫大にかかります。契約等で他社にお願いする場合は、自社の思う通りに動いてもらわないとSPAにならない。
したがって、工場の製造ノウハウ・契約ノウハウ・運営ノウハウが必要なのです。
このようにマネジメントコストが大きくかかるので、簡単にはSPAへの業態変更ができないのです。
SPA(製造小売業)の会社例
ユニクロさん、ニトリさん、無印良品さん、カインズさんが有名です。
小売業として多数の店舗を持っているのが特徴です。そして、製造についても自社主導で行っています。
最近では、各社ともネット通販にものすごく力を入れています。
SPA(製造小売業)の「まとめ」
SPAには上記の通りメリット・デメリットがあります。デメリットを消して、メリットを最大に生かすためには、損益分岐点売上を大きく超える売上を上げる必要があります。
リスクを背負って、消費者のニーズにあった商品を企画・製造・販売する全工程を、自社主導で行うことで、売れる商品を大量に販売する戦略を取るのです。
成功すれば、大きな売上・利益に加えて、ノウハウが手に入ります。成功しなければ大きな損失が
出ます。それほど、固定費を増やすことのメリットデメリットの差は大きいのです。
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