ネット通販印刷のTVCMをよく見ると思います。大量のTVCMを使って顧客開拓をおこなっています。
価格が安く、通常の印刷会社と比べると、半額から1/3程度の価格で販売していのが特徴です。
なぜここまで安くできるのか?その安さの理由について印刷業界に詳しい よしつ が、わかりやすく解説していきます。
この記事は、
・印刷会社で働いた経験
・風土の違う5社での経験
・数百名のマネジメント経験
・数千社への営業経験
・100回を超える勉強会の講師経験
・1,000冊近い読書経験
これらの経験を持つよしつが実体験から得たことを元に書いています。
(あわせて読みたい、ビジネススキル向上のための基礎知識をわかりやすく解説)
ネット通販印刷が安い「3つの理由」
- 工場の空いている時間を活用
- 複数顧客を同じ用紙でまとめて印刷
- 印刷前工程を徹底的に排除
この3つが安さの理由です。とにかく効率最優先で業務を行うことで、安さを提供しています。
まずは現在の印刷マーケットを簡単に解説した後に、この3つをそれぞれ詳しくわかりやすく解説します。
現状の印刷マーケット
元々印刷のマーケットは10兆円のマーケットでした。
ただ、紙での伝達方法がネットに置き換わってきていることでマーケットが縮小しており、現在は5兆円を割る状況です。
印刷業界は、完全に衰退期に入ってるのですが、規模で言うと5兆円もあるマーケットなのです。
その中で、最近ネット通販印刷の躍進という大きな地殻変動が起きています。従来の印刷会社の顧客を低価格で奪っています。価格は、半額から1/3です。
ネット通販印刷が安い理由①工場の空いている時間を活用
ネット通販印刷会社は製造業なので、工場を持っています。稼働していない時間帯に、低価格で仕事を受けることで稼働を上げ、売上・利益を上げる戦略を取ることで安く提供しています。
印刷マーケットが小さくなっていることで、工場稼働率が低くなっていることが、稼働を上げたいという思いの背景にあります。
印刷物の製造において、変動費(売上の伸びと比例して増えるコスト)は、基本、紙代・インキ代・版代の3つだけで、その他は固定費になります。
(変動費と固定費の詳細は、「変動費と固定費」をわかりやすく解説&使い方紹介を参照)
ハンコにインキを塗って紙に押し当てて転写することが印刷の原理です。このハンコ部分を作成するのが版代です。
工場が稼働していない時間帯に、変動費以上の売上金額で受注する仕事を入れることができれば、固定費を賄い、利益が増える(損失が減る)ことになります。
(詳しくは「値引き販売(自社商品)」超簡単解説&使い方紹介を参照)
したがって、大きい工場かつ印刷機を多数持つ会社は、安くてもいいので、工場稼働を上げて、最終利益を少しでも増やそうと考えるのです。
その仕事をネット通販で集めているのです。
ネット通販印刷が安い理由②複数顧客を同じ用紙でまとめて印刷
印刷会社の独特な製造工程上の要因ですが、複数顧客を同じ用紙でまとめて印刷することでコスト削減しています。
現在も500部以下の小部数はデジタルですが、それ以上の枚数のもの(印刷需要のほとんど)は、アナログの機械で印刷しています。
アナログの機械での印刷は、A4パンフを印刷する場合、A4が8枚分入る大きな紙に、8枚まとめて一気に刷り、断裁して出来上がります。
合計2,000部なら、250枚の用紙に8枚ずつ張り付けて印刷し、断裁して出来上がるのです。
(250枚×8部=2,000部)
ただ、すべての印刷が上記のように、大きな紙で空きなく印刷できればいいのですが、8枚を1枚の用紙で一気に印刷できる仕事ばかりではありません。
どうしてもスペースが空いてしますことがあります。この空いたスペースを、他社の印刷物と一緒に印刷することで、本来は捨ててしまう部分を活用しているのです。
この空き枠を使うことで、変動費となる紙代は無料、インキ代はほぼ変わらず、版代も無料となり、稼働アップ及び低価格を実現しています。
ただ、違う会社と一緒に印刷することは、他社の印刷物が他社の中に混入する可能性があります。
印刷物は、割引キャンペーンなど、世間一般にオープンする前の情報を扱っている場合が多いので、このように一緒の用紙で印刷することには慎重だったのです。
ただ、ネット通販印刷は、空きスペースが出ないように沢山の仕事を集めて、できるだけ無駄をなくす工程を組む仕組みを構築し、無駄を省くようにしているのです。
ネット通販印刷が安い理由③印刷前工程を徹底的に排除
上記に加えて、営業担当をなくし、ネットで注文を受け、印刷データについても、すぐに印刷に取り掛かれる形でお客様に入稿してもらいます。
逆に自分で入稿できない人はネット印刷は使えませんし、相談も一切できません。
ただ、これにより、印刷前工程をほぼなくしました。
一般的な印刷会社は、営業担当が顧客とやり取りし、データをもらい、データ修正し、印刷用のデータに変換して、色校正を出し本番の印刷をおこないます。
この工程をすべて排除し、社内作業を減らし、コストカットして販売価格を下げています。
これらがネット通販印刷の安さのカラクリです。
ネット通販印刷の実情
ネット印刷と言われてますが、ネット化されているのは実は受注部分だけなので、ネット「通販」印刷なのです。
この部分が他の業界のネット化と違う部分です。
ネット内で作ったソフトでサービス提供しているわけではなく、旧来のとても高額な印刷機を使用しています。
したがって、仕組みが変わったことで、抜本的にコスト構造が変わり、安く提供できているわけではないのです。
工場を持つ印刷会社であれば、参入が可能なマーケットです。
結果、競合がものすごく多いマーケットとなっており、大量のお金をかけて、TVCMによる顧客の獲得競争をしています。
マーケット全体は下がっています。ただ、その中で、ネット通販印刷を使う人のシェアは増えています。
顧客接点はネット化していますが、旧来型の印刷機を使って、利益率を削りながら、広告費を大きくかけています。
どこが勝者となるのか?それとも、単に価格破壊だけで終わるのか?がこれからのネット通販印刷マーケットの見所です。
ちなみにネット通販会社のラクスルさん「だけ」は、独自の方法を取っています。自社では印刷せずに印刷工程を外注しています。
(ラクスルさんの詳細は、「ラクスルのビジネスモデル」がネット通販印刷他社とは違う!をわかりやすく解説を参照)
ネット通販印刷の安さの理由「まとめ」
- 工場の空いている時間を活用
- 複数顧客を同じ用紙でまとめて印刷
- 印刷前工程を徹底的に排除
体力勝負となっている現在のネット通販印刷で、どこの会社が生き残るのか?1~2年である程度見えると思います。
また、用紙含めた原材料の高騰が進んでいます。価格の安さで各社顧客獲得競争をおこなっているので、どこまで値上げできるか?も大きなポイントとなります。
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